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Shizuoka Design Award 建築賞2023を終えて

【応募期間】 2023年8月1日~2023年10月31日
【応募総数】 31作品

      (住宅部門:14作品、一般部門A:8作品、一般部門B:7作品、改修・増築部門:2作品)
【現地審査】 2024年2月21、22日 2024年3月1、2日

地域交流委員長 中村 裕之

この「建築賞」は2021年に地元の設計事務所の作品を一堂に集めて審査する場を作り、静岡県の建築の質の向上を図るとともに、互いの建築作品への認識を高めるために設立され、今回が2回目の開催となります。

今回の事業に対し会員・非会員の多くの方々から、「31作品」の応募をいただき、心より御礼申し上げます。審査にあたり作品の優劣がつけ難く、各作品のレベルの高さが強く印象に残りました。

審査員は複数ではなく原則一人として、その一人の審査員に作品選出にあたっての権限を委ねるということ、審査員の任期は2~3年でそれを1クールとすること、最優秀を選ぶのではなくレベルに達した複数の作品を入賞(上位)と入選で顕彰すること、審査は書類と現地審査から成ること、等を選出の枠組みといたしました。引き続き回を重ねていけば、複数の視点の中で静岡県の多様な建築観を表出する「建築賞」になっていく事が期待されます。

また、今回は静岡県より木材の利活用について積極的に取り入れている優秀な作品について、「しずおかの木ぬくもり賞」という特別賞をご提供いただいています。

2回目の今回も審査委員長を前回と同じ保坂猛氏にお願いし、13作品の受賞(入賞・入選)、1作品の特別賞の決定をいたしました。建築家であり教育者でもあられる保坂氏の、地域性を読み解く講評と所見をご覧いただきたいと思います。受賞者だけではなく将来の静岡県の設計の質を高めていくためにも、保坂氏の作品に対する評価の言葉が多くの設計者にとって創作活動の参考となれば幸いです。

先程も述べましたが、応募作品のレベルが高く現地審査の選考に苦慮しました。今回は、受賞にはなりませんでしたが、その努力と優れた作品を創出されたことに対し、別途事務所協会の選考により「士事協 奨励賞」を設け9作品を決定させていただきました。

最後になりますが、応募いただきました事務所の皆様と、この事業の益々の発展を祈念いたしまして、第2回の「Shizuoka Design Award 建築賞2023」の終了をご報告申し上げます。ありがとうございました。

Shizuoka Design Award 建築賞2023受賞作品発表

山手の家

株式会社後藤周平建築設計事務所一級建築士事務所 / 後藤 周平

講評
山手の住宅地特有の道路から1段上がった宅地レベルが、ここでは各住宅の宅地レベルがまちまちであることによる地盤面とそこに立つ建物の軒高の段違いによる周辺風景から導かれるように考案された、6つのレベル設定がされたボリュームが違い違いに噛み合いながらセットバックするコンセプチャルな構成だ。この場合、ボリュームの噛み合うところの取り合いをどう処理するかが見どころと思い現地を拝見したのだが、見事に超越していた。ボリュームはそれぞれ荒さのことなる仕上げ左官の解像度が噛み合うところで壁や床で計画不能になりそうな衝突をみせながらも、それらを丁寧に現場で一つ一つ検討し回答を出した作者の誠実な態度の集積が他では見られないような空間に仕立てあげていた。左官のザラつきの多様さは、室内音響的にも吸音・反響のバランスが良いようで、当日緩やかにかけられていたオーディオの音が心地よかった。この様々な左官の表情は実はアート作品を展示する展示壁(背景)としても考えられており、家の中で場面が次々と展開するシークエンスが素晴らしかった。

美薗の家

株式会社SN Design Architects 一級建築士事務所 / 佐野 剛史、鈴木 俊哉

講評
道路から見ると切妻型が外装や軒の研ぎ澄まされたコントロールもあいまってワンランク上のシンプルな佇まいだ。その手前の植栽、車のスペースの屋根下ヴォイド、その奥の庭にコントロールされた視線が抜け少しだけ抜ける。無理のない丁寧な仕事の積み重ねにも一見みえなくもないが、現地でよく見ていると随所にここまではできるという確信に裏付けられた大胆さがいくつも仕込まれている。とてもシンプルなようでいて、実は市松状に配された外空間とヴォリュームの取り合いや、それらを関係づける各所の開口部、手すり、カウンター、土間などどれも普通ではない質の高い仕事であった。庭から見る立面はそれらが集結しつつプロポーションまで良く稀に見るような立面であり、この立面に面して佇むかのようにお施主さんが2階ブリッジのワークカウンターで仕事をし、猫は土間に面して窓を見ていた情景が混ざり合っていて素晴らしかった。

西ヶ崎町の家

minato architects / 金原 大祐

講評
茫漠と広がる畑の風景の中にスッと置かれたようなボリュームが、ほとんどフェンスなどもなく肩の力の抜いてリラックスした感じで建っていた。玄関を開けると子ども室や寝室といったいわばプライベートゾーンが仕切りもなく広がっていて驚いた。その驚きは、ただ無防備にプライベートゾーンが突然あったこともそうだが、実はこのスペース一帯がいい意味で日常の散らかった風景でありながら同時にギャラリーホールのようでもあったからだ。そのような普通考えないようなやり方を、さらりと達成するイマジネーションの自由さが心地よかった。その心地よさは、その上のロフトや仕事場にも同じく染み渡っていた。一方、リビングゾーンはまた異なる作り方の空間であったが、むしろ普通はこうなるという空間がそこにありこちらも豊かな空間であった。このゾーン分けされた2つの世界を行き来する不思議な魅力に独創性を感じた。

ゆりのき保育園

株式会社SN Design Architects 一級建築士事務所 / 佐野 剛史、清水 克吉

講評
中庭が重要な建築を、雨の日の午後に見ることとなり心配であったが、むしろ予想を超えて素晴らしかった。応募資料の写真と図面ではこの中庭は少し狭いかもしれないと思ったが、その中にたくましい庭(土の起伏、複数の石、何本もの樹木)があり、設計者はこの場所を狭いとは考えておらず、実面積を超えてたくましい場所が内包されていた。その周りには一見通路のような舗装面が四角く囲っているのだが、これも通路というよりも子どもたちがぐるぐる走ったり、戯れたりして全くスペースの幅の狭さのようなものを誰も問題に感じてはいなかった。何より、雨が降っていたが十分な庇により雨がかからないスペースを中庭にぐるりと形成しつつ、真ん中に雨を降らせていたのだった。ほとんど四角いパンテオンというイメージをもった。パンテオンは純粋な祈りの空間であり、保育園の中庭もなにか子供たちの純粋さがこの場所の空気を見たし、そこに雨や風、光が注ぎたいへん豊かな空間が実現していて素晴らしかった。この空間を原風景として育っていく子どもたちへの影響と意義は計り知れない。

Okanomiya Office

株式会社竹下一級建築士事務所 / 児玉 卓哉、浅井 唯那

講評
1200㎡の大きな規模の会計事務所の社屋。情報の守秘やプライバシーへの配慮などとても硬いイメージの業種であり、業務風景もおのずと固くなるイメージをもつが、その硬さを程よくやわらげつつ、守るところは守り開放的にできる部分は伸びやかに解放することを、シンプルな建築的構成により達成している。3つの正方形を雁行させるわかりやすく強さもある構成であるが、正方形が重なり合う部分で空間的にも納まり的にも要検討の難しい問題をうまく解かれた力作だ。また全体のグリッドを2m4m8mと倍数をうまく用いて、大きな空間や小さな空間を適宜生み出しながら、全体として2mグリッドの柱と梁による小径材ブレース構造を細かな杭に載せる骨の計画にも知恵が絞られていて、適切な計画へと到達する高い設計力が際立っていた。外観は2mグリッドの開口部と壁がリズミカルに配された合理的なもので、会計事務所の建ち姿として落ち着きがあって良かった。外周の樹木の緑が大きくなれば、落ち着いた壁面の色が背景となって、より景観に馴染んでいきそうだ。軒を出し窓が開けられるオフィスであることもこれからの時代に合っており、軒のコーナーをRにし硬い外観をすこし和らげ優しい表情がつくられていた。コストのバランスやプログラムへの適切かつ創造的な解を高い建築的知性により導く若い力をみた。

はつはな

株式会社石井建築事務所 / 鈴木 俊之

講評
箱根新道須雲川IC出てすぐの、老舗旅館はつはなのリノベーション。外観は既存の屋根はほとんどそのままとし、外壁は既存の白色から落ち着いた茶色吹き付けとし、最低限に手を加えている。内部は現代のニーズに合わないものをなくし、ニーズに合った室構成とし、ダイニングも客室も浴室も敷地北側目前に広がる景色に向いてラグジュアリーにつくられている。敷地北側の眺望は、近景に敷地内の高さ10-15mはありそうな大きな桜の木の幹と枝、中継に須雲川の流れと音が、その向こうに(遠景というほど遠くなく目前に迫る)山の木々と稜線が重なり合ってすばらしい。これを見ながら全室露天風呂とした客室のプランは、年間を通してこの環境をラグジュアリーに最大楽しめるようよく工夫されている。元々内部であったスペースをテラスとし、その奥行き寸法は風呂と大きな屋外家具を置いて使える適切な寸法であり、外装塗装色の明度を下げ、改修以前は虫に悩まされたことも見事に解決し快適なラグジュアリーを実現している。改修の手続きが、蓄積された事務所の実績に裏付けられた実力があって、安定したパフォーマンスを発揮していると感じた。この素晴らしい環境を十分に楽しむために必要な設計判断が一つ一つ的確であり、また演出も必要十分にされているが過剰でないバランスがとても良く、こうした改修が可能であること示したことが、これから多くの人々を勇気づけるものと思った。

LOAM

株式会社アート総合設計 / 鈴木 亜生

講評
建築の建設場所には必ず現地の土がある。その土を使って建築をつくることができれば、それは地産物質を使った建築造営であり究極の環境建築だ。これに取り組むことは容易ではなく、現地の関東ロームの土を適切に取り出し、これを床に使うタイル状に、壁に塗る左官可能な状態に、壁に使えるブロック状に、など形成することは現場ではできないからそれを可能にしてくれる所定の工場へと土を運ぶことになる。そのための運搬はやはり地産地消的なストーリーにおいてジレンマはあるのだが、しかしそれを超えて設計者の挑戦は途方も無いエネルギーが注がれており、無理を可能にするバイタリティと信念は賞賛しなければならない、と思った。実際現地で採取された関東ロームでつくられた床の上を歩き、壁に塗られた壁面を見ながら、外を見れば土ブロックが透かして吊られたスクリーンに囲まれた状態を体験し、率直にすばらしいと思った。大変な試みを続けられていると思うのだが、未来へ向けて今後の展開がとても楽しみだ。

ひかり庭のコートハウス

杉山博紀建築設計事務所 / 杉山 博紀

講評
恵まれた大きな敷地のアドバンテージを十分に生かすべく、ロの字型の中央に大きめの中庭を設け、内周と外周に軒をさげる切妻をロの字方向にスイープさせて作られるコートハウスである。外側にも車のスペースとからめて玄関まわりに大きな軒下空間がつくられていて、プライバシーを程よく守りながら道路を隔てた飲食店舗のと動線も含めた周辺との関係もうまくつくっている。住まわれる多世代、多世帯が住うことの距離感を中庭でうまく関係付けながら、生活を楽しもうとする人間活動が実にいきいきと使われていて素晴らしかった。天井の高さ、中庭の広さ、ガレージの広さ、収納の多さ、中でも外でも火を使う生活など、コートハウスの一言では考えられないようなたくましい様がとても心地よい。それは人間生活への強い関心をもってそれを肯定しその具体性を生かすように、建築の平面・断面の形式をうまく与えつつ生々しい建築の作り方がうまくバランスしていると思った。

ゆきはるの家

株式会社tot一級建築士事務所 / 中根 健一

講評
敷地の目の前に大型商業施設の立体駐車場が面するという厳しい条件に対して、適度に視線を切る袖壁を設け、庭の囲いを通常よりも少しだけ高さを上げ、過剰にならないような程よい設計判断はとても好感がもてた。外観も天竜材の杉板と押縁による取り替え可能な持続性に配慮したつくりで、前述のロケーションに対してネガティブな諦めではなく、とてもポジティブに計画されている。実は設計者は設計をやりながら工事請負もやるというスーパーマンであり、それでなくては実現できないような信じられないスケジュールでも、設計着手時から細かな工事工程表をつくり、時間がないから省略・簡易化するのではなくむしろ非常に細やかな対応を積み重ねてこの建築がつくられていて大変驚いた。こうしたプロセスの中で天竜材をふんだんに使い、設計者の言い方では木配り(構造材1本1本 の特性を把握し、適材適所で使用するために番付を行うこと)まで行われており、そうした仕事を現地で拝見し新しい職能の姿を見る思いがした。

奥平測量設計事務所新社屋/cielo espresso coffee

株式会社トランスタイルアーキテクツ / 大矢 雅祥、中村 静香

講評
測量設計事務所の社屋にカフェを併設しているが、単なる併設というだけではなく、一般の方も利用できる地域に開かれたカフェという側面と、通常では開くことが難しそうな測量会社を一部開いていくことを、うまく重ね合わせたチャレンジであった。建物が外観は白いガルバリウムで片流れの屋根がかわいらしく軽やかで、道路側に配された植物とともに、地域に素敵な場所を生み出している。カフェは思いのほか力を入れられていてカウンター部分だけでも相当しっかりした設備とエスプレッソマシンが設置され、さらに厨房スペースもあり、これからの展開が楽しみだ。客席の奥には測量用のドローンの展示やデモンストレーションで実際にドローンを飛ばすための吹き抜け的な空間もあり、イベント時も楽しそうであった。事務所スペースには通用口が設けられ、カフェとは対照的に割り切り型の集中業務スペースであったが、片流れの屋根の高いところ(吹き抜け)に向けて窓を開けてカフェと繋がっていて、程よいつながり感に心地よさを感じた。会社で働くということや、会社の地域社会との関わりなどへの、建築を通じた新しい試みは意義深い。

トヨタユナイテッド静岡 ダイハツ小笠中央

株式会社竹下一級建築士事務所 / 本田 真木

講評
木造による自動車のショールームの計画である。地方都市の道路に面して、地域の人々の集いの場のような温かい雰囲気を醸し出し、白い折板屋根の即物的な外観、内観が軽やかなテントのようなイメージをつくることに成功していた。ランドスケープもオーストラリア系の植物を豊かに配し、ガラスに面して気持ちの良い場所をつくっていた。室内外には季節にあったキャンプ用品も展示し、車でキャンプに行く楽しさへとリンクされ、車とともにライフスタイルがより楽しくなるようなイメージが広がっていくような関連がよく考えられていた。こういった試みが、地域の人々の生活イメージを豊かなものに導いていく重要な役割を果たすことになるだろうと現地を拝見していて感じられ、社会を変えていく力を十分に持ち得ると思った。
*しずおかの木ぬくもり賞

ちはまこども園

株式会社ヴァイスプランニング一級建築士設計事務所 / 藤原 龍美

講評
約1600㎡のかなり大きな規模のこども園の計画であり、中廊下型のこれ以上ないくらいにシンプルなプランによってつくられている。中廊下は光通路と名付けられ、上からの光がところどころに設けられている。光通路の南側に保育室・教室がずらりと並び、一つ一つ63㎡から84㎡のおおらかな室となっていて、南の園庭に面して軒下半屋外スペースでつながれている。光通路の北側に管理部門、厨房、遊戯室など管理とその他の必要諸室が並び、わかりやすい施設計画で管理運営がしやすく配慮されている。とりわけ光通路とよばれる中廊下は、幅3m長さ70m高さ5m以上でつくられていて、通路でありかつ居場所にもなっているのだが、それを超えて街並というか心地の良いスケールの街路のようでもあり、子どもたちの元気な声があちこちから聞こえる賑わいが全部この光通路に集まってくるようで、なんとも豊かであった。音は吸音ボードなど必要に応じて十分に貼ってあることにより、元気な声が響きすぎず快適にできている。たいへんシンプルな平面計画の中で、この規模ならではの豊かさを、特に光通路において獲得するに至ったことに設計の奥深さがあると感じた。

ランディパーク

株式会社高木滋生建築設計事務所 / 豊田 優作、小倉 優以子

講評
静岡駅と連結する地下通路に面した葵タワー地下階のテナントスペースに、県民共済の加入受付カウンターとランドセルの販売(県民共済の加入者向け)の2つの機能をもった内装の計画である。いわゆる店舗の内装計画という範疇ではおよそ見られないような、重厚な木の集成材をふんだんに使った大胆な計画であり、一定ピッチで並ぶ集成材の門型が、全体として森のような空間を獲得し、立ち並ぶ集成材の門型に囲われた心地よさと、見る角度によって見えなかったり、真正面に立てばすっと通路まで見える空間が、人通りの多い駅直結通路に面した計画としてもとてもマッチしている。集成材の門型のピッチは、売り物として展示されているランドセルのスケールにちょうどあっていて巧妙だ。門型フレームがより強調されるような棚のディテールや鏡の取り合いなど気になる点もあったが、内装計画における細やかさよりもむしろ、その範疇を超えるような集成材の物量が他にはない大胆なインテリアをつくりだしたことに意義を感じた。

トヨタユナイテッド静岡 ダイハツ小笠中央

株式会社竹下一級建築士事務所 / 本田 真木

講評
入選・一般部門Aを参照

滲み合う空間

株式会社トランスタイルアーキテクツ / 大矢 雅祥、中村 静香

梅園の邸宅

株式会社石井建築事務所 / 鈴木 俊之、小松 綾子、山森 掌太

権現谷の家

株式会社SN Design Architects 一級建築士事務所 / 佐野 剛史、鈴木 俊哉

中庭を杉板コンクリート打放しで囲った
ミュージアムのような平屋

株式会社大岡成光建築事務所 / 大岡 成光

鴨川温泉 璃庵

株式会社石井建築事務所 / 永田 直

さなるこ保育園

株式会社SN Design Architects 一級建築士事務所 / 佐野 剛史、久野 真雅、鈴木 啓生

どうする家康 浜松 大河ドラマ館

須山建設株式会社一級建築士事務所 / 小野寺 司

常盤工業株式会社本社事務所

常盤工業株式会社 / 中村 圭介

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